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No.039 舌小帯短縮症の手術とカイロプラクティックという選択

舌の裏のスジ(舌小帯)が短く舌先に近いところにあって、舌の動きが制限される状態を「舌小帯短縮症 (tongue tie)」または「つれ舌」「舌癒着症」と言い、正常分娩児の5%未満にみられるそうです。

上唇の裏のスジが短く歯茎に伸びていて、上唇が鼻先に持ち上がらない「上唇小帯短縮症 (lip tie)」を併せ持っていることもあります。

以前は、おっぱいトラブル(哺乳障害)のある赤ちゃんに舌小帯短縮症があると、哺乳改善のために舌小帯を小切開手術する、ということが習慣的に行われていました。

私は米国留学中、小児カイロの先生から「舌小帯短縮症だと手術を勧められるけれど、9割の赤ちゃんは手術せずにカイロプラクティックケアだけで哺乳障害が改善されるよ」と聞いていました。

おっぱいを飲むには、「乳首のほうに首を動かして、口を大きく開けて深く吸いつき、舌を動かしておっぱいを飲み込みながら呼吸をする」という一連の動作をスムーズに行う必要があります。

哺乳障害のある赤ちゃんの多くに頸椎や顎関節の可動域制限および吸啜反射の問題があると報告されており(参照1)、カイロプラクティックケアでそれらを改善することにより、おっぱいトラブルが解消されたという論文は数多く存在します。

実際に当院でも、舌小帯短縮症のあるなしにかかわらず、多くの赤ちゃんの哺乳障害はカイロプラクティックケアで改善されていましたので、「舌小帯の手術をする前にカイロケアの選択肢があることを知ってほしい」と考えていました。

しかし今回、生後11週のお子さんをつれたお母様が「舌小帯短縮症と上唇小帯短縮症があるけれど病院が手術してくれない」と来院されて、認識を新たにしました。

現在は、多くの病院で哺乳障害に対する舌小帯短縮症の切開手術は行われていないのです。

それは2001年、日本小児科学会が「舌小帯短縮症に対する手術的治療に関する現状調査とその結果」というガイドライン・提言を出し、「母乳栄養に役立つとの思いから乳児の舌小帯を切ることは学問的根拠のない習慣」としたためのようです。

つまり、医師もカイロプラクターも「舌小帯短縮症は哺乳障害の原因とはいえない」という同じ見解に達したということです。

「手術の前にカイロケアを試してほしい」という声がなかなか届かず、力不足を感じてきた小児カイロプラクターにとっては朗報です。しかし一方で、赤ちゃんがおっぱいを飲んでくれない親御さん達にとっては、病院で対処してくれないことは絶望的なことかもしれません。

今回来院された生後11週の赤ちゃんは体重4000g、ぱっと見ても痩せていることがわかりました。出生時は3200gの正常体重でしたが、おっぱいの吸いつきが浅くすぐ口を離してしまい、母乳やミルクを充分にあげられていませんでした。お母さんは病院が舌小帯短縮症を切開手術してくれないので必死に情報を集め、小児カイロプラクティックにたどり着かれました。

初診時には左仙腸関節と頸椎1番および頭蓋にわずかな動きの制限があり、触れるような優しいタッチでカイロプラクティックアジャストメントと頭蓋調整を行いました。3日後の2回目の来院時には嬉しいことにミルクを飲む量が2倍に増え、目を覚ましている時間も40分から2時間に増えたとご報告いただきました。アジャストメント回数を重ねる度に動きも活発になってきています。

おっぱいトラブルに舌小帯短縮症が影響しているのではないかと悩む親御さん達に、もっと小児カイロの情報を届けなければと実感した症例でした。

参照:
1)Slak L, Wilson KA. Resolution of breastfeeding difficulty following subluxation based chiropractic care. J Pediatr Matern & Fam Health – Chiropr. 2013 Jan; 7-10.

2)日本小児科学会ガイドライン・提言
「舌小帯短縮症に対する手術的治療に関する現状調査とその結果」
https://www.jpeds.or.jp/modules/guidelines/index.php?content_id=85

3)東京医科歯科大学
Ⅱ. 現在における舌小帯短縮症の考え方と対応
https://www.tmd.ac.jp/dohs/155_58bd7160b4bb5/155_58c15065714ef/

執筆:
山﨑 美佳 DC,CACCP,PhD
きっず&ふぁみりーカイロプラクティック三田/ 東京都港区
https://kiffami.com

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