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No.061 妊娠中の腰痛・骨盤痛に骨盤ベルトは有効か?

研究から見える可能性と、専門家によるチェックの重要性

妊娠中に腰や骨盤まわりの痛みを感じる方は少なくありません。

妊娠が進むにつれてお腹が大きくなり、重心の位置が変化します。その結果、腰を反らせるような姿勢になりやすくなったり、骨盤まわりの関節や筋肉にかかる負担が増えたりします。また妊娠中は、出産に向けて身体が変化していく過程で、関節や靭帯がゆるみやすくなることも知られています。

そのため、普段であれば問題にならないような立ち上がり、寝返り、歩行、階段の上り下りといった日常動作でも、腰や骨盤まわりに痛みを感じることがあります。

こうした妊娠中の腰痛や骨盤痛に対して、比較的よく用いられている対策の一つが「骨盤ベルト」です。ドラッグストアやインターネットでも購入しやすく、医療機関や助産師さんから勧められた経験のある方もいらっしゃるかもしれません。

では、実際に骨盤ベルトにはどの程度の効果が期待できるのでしょうか。

今回紹介する研究は、妊娠中の腰痛や骨盤痛に対する骨盤ベルトの効果を調べたシステマティックレビュー・メタアナリシスです。システマティックレビューとは、過去に行われた研究を一定の基準に沿って集め、総合的に評価する研究方法です。さらにメタアナリシスでは、複数の研究結果を統計的にまとめることで、全体としてどのような傾向があるのかを検討します。

この研究では、妊娠中の腰痛や骨盤痛をもつ女性を対象に、骨盤ベルトを使用した場合と使用しない場合を比較した研究が分析されました。その結果、骨盤ベルトの使用によって、痛みのスコアは平均して約20点低下する傾向が示されました。一方で、日常生活の動きやすさ、つまり機能障害の改善については、平均して約4.7点の改善にとどまりました。研究者らは、痛みに関するエビデンスの質を「低い」、機能障害や生活の質に関するエビデンスの質を「非常に低い」と評価しています。 

つまり、現時点での結論としては、「骨盤ベルトは妊娠中の腰痛や骨盤痛を軽減する可能性はあるが、すべての人に明確な効果があるとまでは言い切れない」ということになります。

これは、骨盤ベルトが無意味だということではありません。むしろ、比較的安全で、手に入りやすく、費用面の負担も大きくないため、症状がある方にとっては試す価値のある選択肢の一つだと考えられます。特に、歩く時に骨盤まわりが不安定に感じる、立ち上がりや寝返りで痛みが出る、長時間の立位や家事で骨盤まわりに負担を感じるといった場合には、サポートとして役立つ可能性があります。

一方で、注意したい点もあります。

骨盤ベルトは「骨盤を締めればよい」という単純なものではありません。妊娠中の腰痛や骨盤痛には、骨盤まわりの不安定性が関係している場合もありますが、逆に特定の関節の動きが悪くなっている場合、筋肉が過剰に緊張している場合、股関節や背骨の動きの偏りが関係している場合もあります。

たとえば、骨盤の一部に動きの制限がある状態で強く締めすぎると、かえって動きにくさを感じたり、別の部位に負担が移ったりすることがあります。また、ベルトの位置が合っていない、締める強さが強すぎる、長時間つけっぱなしにしているといった使い方によって、不快感が増すことも考えられます。

そのため、骨盤ベルトはあくまで「身体を支えるための補助」として考えることが大切です。

妊娠中の腰痛や骨盤痛に対して本当に必要なのは、今起こっている痛みがどのような要因から生じているのかを見極めることです。支えが足りないのか、動きが悪くなっているのか、筋肉が過剰に緊張しているのか、あるいは姿勢や歩き方、日常動作のクセが影響しているのか。こうした要因は一人ひとり異なります。

カイロプラクティックでは、背骨や骨盤、股関節などの関節の動き、姿勢のバランス、身体の使い方を評価しながら、負担のかかっている部位を確認していきます。妊娠中であっても、身体に無理のない範囲で評価を行い、必要に応じて安全性に配慮したケアや生活上のアドバイスを行うことができます。

骨盤ベルトを使う場合にも、どの位置に装着するのがよいのか、どの程度の強さで締めるのがよいのか、どのような場面で使用するのが適切かは、身体の状態によって変わります。日中ずっと使用する方がよい場合もあれば、歩行時や家事の時だけで十分な場合もあります。反対に、常時使用するよりも、身体の動きを整えるケアやエクササイズを組み合わせた方がよいケースもあります。

今回の研究でも、骨盤ベルトの種類、使用時間、痛みの部位、妊娠週数などにはばらつきがありました。また、硬いタイプのベルトと柔らかいタイプのベルトを比較した分析でも、明確にどちらが優れているとは言えない結果でした。 

このことからも、「このベルトを使えば大丈夫」というより、「その人の身体の状態に合った使い方を考える」ことが重要だといえます。

妊娠中の身体は日々変化します。昨日まで大丈夫だった動きが急につらくなることもありますし、逆に少し身体の使い方を変えるだけで楽になることもあります。腰痛や骨盤痛があると、動くこと自体が不安になり、活動量が減ってしまう方も少なくありません。しかし、過度に安静にしすぎることが、かえって身体のこわばりや不調につながることもあります。
大切なのは、痛みを我慢し続けることでも、自己判断で対処し続けることでもありません。 骨盤ベルトは、妊娠中の腰痛や骨盤痛に対する有用な選択肢の一つです。ただし、それだけに頼るのではなく、身体の状態を確認しながら、必要に応じて専門家のチェックを受けることをおすすめします。


また、妊娠中にお母さんが無理のない範囲で身体を動かし、日常生活をできるだけ快適に送れることは、お母さん自身の健康だけでなく、お腹の赤ちゃんにとっても大切です。適度な活動は、お母さんの血流や心肺機能、血糖コントロール、体重管理、気分の安定に役立つことが知られています。これらは結果として、胎盤を介した赤ちゃんへの酸素や栄養の供給を支え、妊娠糖尿病や過度な体重増加に伴う赤ちゃんの過大発育などのリスクを抑えることにもつながる可能性があります。妊娠中の運動・身体活動は、妊娠糖尿病や帝王切開のリスク低下などとも関連することが報告されています。

つまり、痛みを減らしてお母さんが安心して歩ける、家事ができる、外出できる状態を保つことは、単に「お母さんが楽になる」というだけではありません。赤ちゃんが育つ環境を整えるという意味でも、妊娠期間を健やかに過ごすための大切な土台になります。

妊娠中の腰痛や骨盤痛でお悩みの方は、まずは無理をせず、現在の身体の状態を知ることから始めてみてください。安全で快適な妊娠期間を過ごし、安心して出産を迎えるためにも、ご自身の身体に合ったケアを選んでいきましょう。

引用:

https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0266613825002475?via%3Dihub

Lauridsen J, Dalbøge A, Jahn A. The effect of pelvic belts to manage low back and pelvic pain during pregnancy a systematic review and meta-analysis. Midwifery. 2025;148:104529. doi:10.1016/j.midw.2025.104529

執筆:

溝渕 知秀 DC, MPH

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